ヒードラー訪問記――それぞれの自然派 その2.日に晒される房と陰になる房

<<前回 その1では実の中心部の温度が高くなると収穫を止めるお話しでした

 

本日のお題は畑巡り。


それにしても、ルードヴィック・ヒードラーほど楽しそうに畑を見せてくれる人もそうない。

土の様子、ブドウの生態、周囲に生える草花、飛び交う虫…頬をなでる風から忍び寄る雨雲…何から何まで、とにかく心底ブドウ畑とそれを取り巻く自然と触れ合うのが楽しくてたまらない、という様子で、子供の頃からの遊び場であった畑で、その長く親密な時の蓄積&抜きん出た好奇心と観察眼から得られた独自の見解やら栽培テクニックやら、を次々と披露してくれます。

 

「ゆかり、畑を見たいなら丸一日時間をとってくれないと」「ああ、こうやって畑に長居してると、またマリアに叱られちゃうね」…なんて調子で、いつも30分とか1時間の予定で畑に出るのですが、気が付くと2時間以上経っている、なんてことがザラにありました。

 

さて、この日は一昨年新たに購入した60年近い樹齢のグリューナーの畑"シェンケンビヒル"を「ちょっと見る」だけの予定でルードヴィックに同行。この間のエアステ・ラーゲン・プレゼンテーションでも光っていたグリューナ-の畑です!

グリューナーの植えられた土としてはかなり岩々で、もろい角閃岩を主体に片麻岩も一部に見られ、その間を白色の長石が縫っているような構造。下の方に行くとこうした岩の上にレスが積もる。(はい、土壌写真も入れときましたよ:)

樹齢の高いグリューナーは既にかなり甘い実をつけています。なんでもこの古木は今は新たに入手が難しい古いセレクションのグリューナーで、ナッティーでまろやかかつ深みのある味わいのワインになるそう。生のブドウもナッツ風味と蜂蜜のようなまろやかな甘みがあります。同じ畑の別の所有者の新しいセレクションの実を頂戴すると、確かにこちらの方は俄然フレッシュな、メロンや青りんごを連想させる味。

 

同じ畑の同じグリューナーでも、セレクションが異なるとこんなにブドウ自体の味が違うものなんだぁ!

 

と、改めて感心していると、ルードヴィックが日を浴びている房の実と葉の陰になっている房の実を食べ較べるよう私に促します。確かにブドウを口に入れると、同じ外気温下でもブドウの実の温度は本当に大きく異なり、その風味も「冷たいからフレッシュに感じる」というような程度を超えて、冷たい方が鮮度感はもちろん、香味が格別にイキイキしていました。

 

なるほど、ブドウの段階でこれだけ違えば、出来上がるワインの香味は大きく変わって当然だ

 

ところで、ブドウは既に糖度的にはかなり完熟に近い状態ですが、ここからが風味を育む期間で、これからしっかりとグリーンハーベストを行い、残した房に風味を凝縮させます。

 

その後、道を挟んで隣の畑、"シュタインハウス"のリースリングの畑に入りました。

ほぼ東西に畝の走る畑では、ブドウの房がハッキリと日のよく当たる側(南、やや南南西)と当たらない側(北、やや北北東)にぶら下がるカタチとなり、収穫の際には収穫者も両側につきます。

 

ここまでは普通ですが、ヒードラーではこの日の当たる側と当たらない側のブドウを分別して収穫します

 

さて、ここでクイズ。どちらが格上のラーゲンヴァイン(単一畑ワイン)に使用されるでしょう?

――正解は、実は日が当たらない方なんです。※日に晒された方は格下のUrgesteinの原料に

 

ブドウ栽培の北限からほんの数キロでありながら、「いかにお日様を当てて糖度を稼ぐか」よりも、「いかに光を制限することで、実の中心温度を低く保ち、エレガントな香味を育むか」の方が、最近ではずっと重要課題だということが浮き彫りですね。

 

 当然14年のような、例外的に日照の少ない年には、そのさじ加減や適用方法が変わっている可能性が高いけれど、いずれにしても、こうして常日頃から日向側と日陰側のブドウを選別して収穫するというひと手間が、不利な天候下でも各畑らしい味わいを得るための、大きな選択肢を生み出している、ということは確実です。

加えてヒードラーは14年には、夏が湿って低日照とみると、夏のプルーニングの際に木を高く仕立てて葉を通年より沢山つけた上で、ブドウに直接かかる、あるいはブドウを覆うような葉は、きれいに除外しています。多くの葉によって少しでも光合成を沢山行い、気孔から水分を逃がし、一方で実にはできるだけ光を当て、風通しを良くし湿気を溜めない、という工夫です。

 

…あの14年ですら、各畑の個性がよく出ていたことの裏には、こうした小さな技の積み重ねがあったことが、ひとつひとつ解明されて行き、なかなかスリリング!

 

「おっと、またマリアに叱られちゃうから、そろそろ戻ろうか」と、シュタインハウスから坂を下り、町に近い最後のテラス辺りまで来ると、ルードヴィックがなんだか健康状態に問題大アリの区画を指さします。遠目にも沢山の葉が焦げたように枯れていたり黄色くなったりしていますし、近くに寄ると、ブドウの実が小さくて青い…

 

「これは僕の畑ではないんだけれど」と言いながら、ルードヴィックが意外なことを語り始めました。

 

その様子は次回に>>