クレムス川上流超急斜面が凄い! エアステ・ラーゲン・プレゼンテーション報告  その3 クレムスタール編

<<前回はエアステ・ラーゲン・プレゼンテーションのカンプタール編でした

 

今日はクレムスタール編です。

御大ヴァッハウと、国際的に人気の高いワイナリーの多いカンプタールに挟まれて、クレムスタールってやや影が薄い…。超大手やら協同組合の印象が強いので意外にも思えますが、エアステ・ラーゲの数では実はカンプタールに大きく勝る。ダイナミックで多様な地勢と土壌を擁し、まだ日本に紹介されていない名ワイナリーも隠れていることもあり、プロや愛好家にもっと注目して欲しい産地です。

 

さて、エアステラーゲンの地図を改めてご覧いただきたいのですが、クレムスタールは大別して、

1.カンプタール西南部から続く深いレスの斜面、2.ヴァッハウから続く原成岩の急斜面、3.クレムス川上流の原成岩急斜面、4.土壌は多様なドナウ南岸の緩斜面、というかなりキャラの異なる4つの地域の合体で、そもそも土壌や地勢から一産地として括るのにはかなり無理のある産地。その分、14年の厳しい天候が、どの地域でどう影響したのか、踏み込んで考えるには最も興味深い産地である、とも言えます。

実際の会場では、クレムスタール全体の畑が各地域とは無関係にアルファベット順に並んでいるのですが、分かりやすくするために、よかった畑(&生産者)を、地域別に並べてみましょう(例によって青字はリースリグ、はグリューナー、☆印は秀逸なもの)。


1.カンプタール西南部から続く深いレスの斜面

l  カプツィーナーベアク フリッチ:バランス

l  モースブルゲリン ブーフエッガー:酸かなり高いが綺麗

l  モースブルゲリン マントラーホーフ:やさしさ

l  シュナーベル セップ・モーザー:きれいな風味生き生き

l  シュピーゲル マントラーホーフ:さりげない円やかさ

l  トゥルナーベアク ☆テュルク 骨太なミネラル

※他に有名畑としてゲブリング(セップ・モーザー他)等

 

2.ヴァッハウから続くシュタインの原成岩急斜面

l  ケーグル ☆サロモン・ウントホーフ(リザーヴの方):端正な黄色果実とミネラル

l  プァッフェンベアク サロモン・U…クノルやーい!!:)

l  ヴァハトベア シュタッドクレムス:素直&バランス

l  ヴァハトベアク テュルク:ストラクチャー

※他に有名畑としてグリレンパルツ(シュタット・クレムス)、エアステ・ラーゲではないが、シュタイナー・フント(ニコライホーフ)等

 

3.クレムス川上流の原成岩急斜面:気温低

l  エーレンフェルス ☆プロイドル:フォーカス、コンパクト

l  エーレンフェルス ☆プロイドル14とは思えぬ凝縮感

l  ペリンゲン ニグル:長い余韻、☆プロイドル:ミネラルの凝縮感凄い!

l  プェニングベアク プロイドル:焦点・風味の凝縮・蜜

l  スノゲリン シュミード 厳しさぎりぎりスタイリッシュ

※他に有名畑としてホッホエッカー(ニグル、プロイドル)等

 

4.ドナウ南岸の斜面(原成岩やコングロマリットにレス等の乗った土壌が多い)

l  ゴルトベアク ☆ガイヤーホーフ:断トツのエネルギー感! とても長い余韻

l  シュタインビュール マラート:硬すぎない心地よいミネラル

※他に有名畑としてゴットチェレ(マラート、シュティフト・ゲットヴァイク、ウンガー)、シルバービヒル(マラート、S・ゲットヴェイク)等

 

ま、そんな訳で、改めてこうして並べてみると、14年は特にクレムス川上流の超急斜面のワイン達が素晴らしかったことがよくわかります。コングロマリットや小石の上にレスの乗った斜面、高原のてっぺんの平地のワインも健闘しています。

 

その理由や各地域のあれこれを詮索する前に、たまたま会話を交わすことのできた生産者たちの声をお伝えしておきます。

左からセップ・マントラー、マーティン・ニグル、サロモン親子、マークス・フーバー(左)とミヒャエル・マラート

セップ・マントラー(所有畑の大半が深いレスである彼に対して、14年の気候はレス土壌に有利だったか、不利だったか、という私の質問に対し)

――問題は土ではなく、常に湿った空気だった。もちろんロームを多く含む区画では貴腐はより大きな問題にはなったが。糖度が上がるのを待ちたいのに、糖度が上がればより貴腐も付きやすくなるので、頭が痛かった。

 

ニッキー・モーザー(やはりレスの畑が多い彼にも同じ質問)

――確かに大変な年だった。貴腐がつくととにかくすぐに全部落とそうと試みたし、ひとつの畑を最低3度は収穫している。でも、半分をカビで失うことになったブルゲンラントの赤に比べればずっとマシ。特にゲブリングはレスというよりコングロマリットだからね。

 

フレッド・ロイマー(本人不在で、セールス・スタッフがクレムスタールの部屋にいたので、ついでに同様の質問)

――そうだね、レスの多いシュピーゲルはかなり早く収穫しなければならなかったけれど、シュタインマースルや一番樹齢の高いゼーベアクはじっくり待つことができた。

 

 イルゼ・マイヤー(階段ですれ違いざま、ゴルトベアク〔石灰の多いコングロマリットが底土〕のエネルギーに圧倒された,と私が言うと)

――そう言ってもらえると苦労が報われる。私もゴルトベアクの出来にはとても満足しているの。

 

 フランツ・テュルク(ヴァハトベアク〔石灰の多いレス on片麻岩&マイカシスト〕とトゥルナーベアク〔ドナウが運んだ石英や結晶岩の小石〕の骨太な凝縮感を褒めると)

――ありがとう。少なくとも5060%の実を落としたからね。

 

実は私は、原成岩や小石土壌より保水性に勝るレス土壌は、雨の多かったこの年、不利だったのではないか、という仮説を持ってこのテイスティングに臨んでいました。

 

しかーし!!! それはとても浅はかな考え方であるということが、ワインの味わいからもヴィンツァー達の話からも判明。

 

要するに、セップ・マントラーが言うように問題は土ではなく、空気だった」のです。同じレスであっても、ロームを多く含むか、下がコングロマリットや小石、砂であるか、そして斜度や地勢によって水はけは大きく変わるし、風(これも冷たい風からは守られた方が有利ではあるが、風通しが悪いのは致命傷…と、単純ではない)も重要だし、太陽光の当たり方(日照時間の長さに加え、南東向き、斜度の高い方が光合成効率上有利)、などなど、多くの要素が絡んでおり、そこにそれぞれの条件に応じたキャノピー・マネジメントの的確さと、文字通り身を削ってのセレクションの量と時期、糖度と貴腐の蔓延とのトレード・オフ関係と先の天候を見越しての収穫時期の決定…などなど数え切れないほどの要素が絡み、そのひとつひとつを丁寧にクリアした畑と生産者にだけ、量は少なくとも満足の行く質のワインがもたらされた、という訳です。

 

トルストイの名言「幸福な家庭は全てよく似たものであるが、不幸な家族は皆それぞれに不幸である」は、ワインにもそのまま当てはまります。つまり…

恵まれた天候の年のワインは一様に素晴らしいけれど、難しい年のワインは、本当にそれぞれの苦労と叡智を映し、更に言えばそれぞれの諦め方まで浮彫りにします。

 

だから私には、難しい年のワインこそ、一層愛おしい!! (へそ曲りとでも何とでも呼んで下さい:)。

 

次回はゆるゆるイベント”ゲヌースマイレ”の様子です>